ぼくがこんなやり方でお店をやっている理由|GRANVILLY BURGER|大倉山

初めてご来店いただく方へのお願い。

「当店1人で営業しているため、いくつか不得意なことがあります。まずは大人数でのご来店。
5名様を超えるようなグループでのご来店は、お店が回らなくなってしまうため基本的にお断りさせていただきます。」

「当店ではお店の雰囲気を楽しみながらお食事をしていただきたいと思っています。
基本的にテイクアウトはあまりポジティブじゃないです。
初めての方はイートインでのご来店をご検討いただけましたらとても助かります。」

「グランビリーはサービス業じゃないので、僕はサービスしませんが、その分皆さんも気軽に楽しんでください。」

これらは、最近GRANVILLY BURGERのInstagramから投稿された、ご来店時に関するお願いの一部。

グランビリーファン歴が長い方や、店主を知っている人は「はいはい、そうなのね。」くらいの“いつものメッセージ“ですが、普通の飲食店ではあまり見ることのないインパクトを感じる方もいるのでは。

ハンバーガーの話は一切登場しません。

この記事の中では、ハンバーガーの食材のこだわりや美味しさへの追及についての話は一切登場しません。

店主のお店への想い、人としての考え方、“ぼくがこんなやり方でお店をやっている理由”にフォーカスをあてているお話になっています。

まずは「グランビリー店主の説明書」をご覧頂き、佐藤さんのちょっと変わった雰囲気に触れていただいてから本題に入らせていただきます。

苦手なことが、佐藤さんらしい。

文章:myourenjar 写真:myourenjar 構成:myourenjar


日本と違う、カナダのカルチャーを楽しんでほしい。

─── 佐藤さんと初めて出会ったのは丁度1年前、アールさんで間借りのハンバーガー屋さんをしている頃でした。その頃から変わらぬスタンスと独特な世界観や考え方、佐藤節のファンです(笑)。ただ、わからないことも沢山あるので色々と聞きたいことが溢れ出そうなのですが、

まずは、佐藤さんの代名詞「カナダ」との関係から教えてください。

佐藤さん:「カナダは、本当に好きで。もしかしたら前世がカナダ人だったのかもしれないと思うほどで。

思い返すと物心ついたときから、海外のアニメやドラマの世界観が好きで憧れてたんですけど、高校2年の修学旅行でカナダに初めて行ったときに、小さな頃から憧れていたテレビの中の世界が目の前に広がっていて感動と衝撃を受けました。

そこから、何度かカナダに行く中で『カナダでお店を持つ』ということが僕の夢になりました。

満を持して勤めていた会社を辞めて、ワーキングホリデーのビザを取って、いざカナダに移住しよう!という時にコロナがはじまってカナダの入国制限がかかって突然行けなくなってしまって、

ショックのあまり、その出来事から1年くらいは誰にも会いたくない。何もしたくない。と、廃人のような引きこもり生活をしてました(笑)

そこから、運よくご縁があって綱島にあるアールさんでスタッフとして働くことになり、スタッフとして働く中で沸々と“ハンバーガー屋さんをやりたい”という夢が再熱してきて、

間借りをする形でGRANVILLY BURGERをスタート。そこから半年後、また運よくこの店舗が借りられることになって、2022年6月に独立してスタートをして、今に至ります。」

─── そもそも「カナダでお店を持つ」ことが夢だったんですね!移住の断念は無念だったと思いますが、佐藤さんのカナダへの想いを、今ここで形にしているのがGRANVILLY BURGERなんですね。

佐藤さん:「最初は”WHITE SLICE”って名前のハンバーガーメインのみんながゆっくり過ごせるダイナーをやるつもりだったんですけど、周りから見たときに分かりやすいようにハンバーガー屋をすることにしたんです。

ハンバーガーというのは僕にとっては入り口の一つでしかなくて、北米の人がダイナーやカフェで時間を過ごすみたいに、みんなが生活を送る場として使ってもらえたら嬉しいなと思って、GRANVILLY BURGERをやっています。

修学旅行以来久しぶりにカナダのバンクーバーへ行った時、

着いてすぐ訪れたコーヒーチェーン店のピックアップカウンターで、店員さんとお客さんがすごくフランクに話をしている光景を見て衝撃を受けたのを覚えています。

日本には無い感覚が北米にはあって、この感覚の違いを自分なりに考えたらカナダでは「”お店”と”お客さん”」の関係が「”自分”と”あなた”」の関係であって、そんな人としての対等なコミュニケーションの在り方がすごく素敵だと思ったんです。

グランビリーもそんな風なお店でありたいなって思っているんです。」

アール時代の佐藤さん。

「日本だとお店に行く目的が“ご飯を食べること”になっていることが多くて、ご飯が出てきて食べたら帰る。ような感覚が根強いように感じるんです。

北米だと、朝教会に行ってから家族や恋人、友人、ひとりでダイナーで朝ご飯を食べて過ごしたり。毎日のように、日常的にダイナーに行って過ごしている。

「ご飯を食べに行く」という感覚よりも「時間を過ごしに行く」感覚が強い。ダイナーの存在が、まるで生活の一部になっている。そんな文化が根付いている。

僕は、毎朝ここに来てコーヒー飲んでるんですけど、好きなカナダの音楽がタイミングよく流れてきて、カナダっぽいバスが通って。僕はここをカナダだと思ってるし、ここに来てくれた方にもカナダのカルチャーを楽しんでほしいと思ってます。

そんな風にカナダのカルチャーを楽しんでいただけるような、お店とお客さんの距離感を思い描いているんです。」

グランビリーは飲食店だけど、サービス業ではない。

─── なるほど。根本的な部分に「カナダのカルチャーを感じてほしい」という想いがあるんですね。 

ただ、多くの方の中に、当たり前のように日本文化の根強くある中で、カナダのカルチャーを感じてくださいというのは、伝えることも、スタイルを貫くことも難しく感じる部分があるのではないですか?

佐藤さん:「めちゃくちゃ難しいと感じています。

「”お店”と”お客さん”」の関係が「”自分”と”あなた”」の関係であるべきだと思うし、そこを目指しているけど、日本文化の感覚だと「”お店”と”お客さん”」の関係が対等じゃなくて、お客さんが強くなっていると感じることが多い。

ただ、僕は自分があったらいいなというお店を作るためにグランビリーをやっていて、一方的なサービスを提供する場所ではなく、お互いのコミュニケーションの場所にしたいと思ってるので、

何も言わないで席に座られたり、お客様が高圧的な態度できたら嫌だと思うし、お客様が神様なんて思ってないし、そもそもサービス業じゃないからサービスしようと思っていないんです。」

お客様は神様なのか。

2018年に話題となった、「お客様は神様ではありません。また、当店のスタッフはお客様の奴隷ではありません」という、とある飲食店の張り紙。

「おい、生ビール」1000円
「生一つ持ってきて」500円
「すいません。生一つください」380円

スタッフに対する客の態度によって値段を変動させ、お客さまとお店間のパワーバランスの違和感に一石を投じたのは、東京都内に5店舗を展開する和牛にこだわった酒場「コンロ家」。

 コンロ家の「お客様は神様ではありません」貼り紙記事はこちらから

─── この、コンロ家さんの張り紙もインパクトありますよね。ちょっとメッセージ性が佐藤さんと似てるかなと思ったんです。

佐藤さん:「このお店さんが伝えようとしていること、共感しかありませんね(笑)

この記事でコンロ家さんが話しているように、僕もディズニーランドが大好きなのですが、グランビリーもそんな世界観を目指していて。非日常なお店で、待ち時間も楽しんでもらうようなテーマパークにある飲食店みたいになりたいなと。

飲食店でサービス業としてもしっかりしていて、テイクアウトもすぐに受け取れて美味しいハンバーガーを食べれるお店は、近くにも沢山あると思うんです。

多分うちはそういう需要を満たすような、沢山の方に向くお店ではないと思うし、いわゆる飲食店、サービス業としての当たり前をやろうとしてないお店なので、

その辺の需要と共有が少しでも合致するようにと思って発信を続けているのですが、日々、伝えることの難しさを感じている。

グランビリーの本質的な良さっていうのは自分の中で見えてきていて、きっとグランビリーが好きなお客さんには気づいてもらえていると信じているし、

その世界観に共感してくださる誰かにとってお腹も心も満たされる場所になればいいなと思っています。」

生活の一部として。第二のリビングとして。

─── 子供連れの方にも、普通の飲食店で気にすることは気にしなくてよいとか?

佐藤さん:「お子さんがいるから店内で食べれなくてっていうお母さんもとても多いのですが、グランビリーは普通の飲食店じゃないので、普通の飲食店で気にするようなことは全く気にしなくて大丈夫です。

まずどんなにお子さんが騒ごうが、僕は気にならないですし、壊されて困る物も置いてないので、何を触ってもらっても構いません。僕は子供たちと話をするのが大好きなので、お仕事中だから話かけないで!って叱らなくても大丈夫です。

僕が小さい頃にアメリカ文化にドキドキしてたみたいに、子供たちにはグランビリーにきて楽しいって思ってもらったり、いい思い出を作ってもらえたらなって思っています。

大人の方もドリンクだけで気軽に来てもらっていいし、ハンバーガーなんて毎日食べにくるようなものじゃないからバーガーを頼まなくても、お店来れるように色々メニュー増やしていこうとも思ってます。

カナダのカルチャーのように、生活の一部として、第二のリビングのような感覚で気軽に過ごしてもらえたり、毎日のように来てくださる方が増えたらとても嬉しいです。

僕が考える理想のダイナーになるためには。そしてグランビリーを続けていくためには、皆さんに気軽にたくさん来ていただくことが今1番必要なことで、

何度も言いますが、来てくださる方といつも対等でいたいと思っていますし、

皆さんに助けてもらいながら、グランビリーが日本の飲食店の常識にハマらない、北米にあるようなみんなの生活の一部にある場になれたら本当に幸せです。」

ぼくがこんなやり方でお店をやっている理由

─── 私は、佐藤さんがどんな方か少なからずわかっているし、考え方も似ている部分があるからか共感する部分が多いし応援したい気持ちが大きいです。

ただ一方で、佐藤さんに会ったことがない方や、受け取り方によってはインパクトの強いメッセージと受け止められてしまうことで、来店のハードルが高くなってしまっているかもしれない。という点については、どのように考えてますか?

佐藤さん:「僕もそこがとても難しいなって思ってるところなんです。

インパクト強いことばかり書いていて行ってみたいけど来づらいって思ってる人がいたら申し訳ないなってすごく思うのですが、

来てダメだった時に違うところで挽回しにくいところにあるお店なので、せっかくの休日に嫌な思いだけは本当にしてほしくないので、うちがどういうお店かと事前に知っていただくことは大事なことなのかなとも思っています。

だから自分の信念や作りたいお店像を持っている限りこれは仕方のないことなのかなと、割り切っているというか。

例えばヴィーガン専門のお店に、ヴィーガン文化に興味ない人は行かないだろうし、タワーオブテラーにフリーホール嫌いな人は乗らないだろうし。そもそもあのディズニーランドでさえ、好きじゃない人はいっぱいいるし。

だから僕はグランビリーを好いてくれたり、面白いと思ってくださってる人達がずっとワクワクできたり、リラックスできるお店にどんどん進化させていきたいと思っています。

でもお店だから人が来ないと無くなってしまうので、うちに興味を持ってくれるまだ出会ってない方達にはどんどん出会っていかなければいけない。

色んな声があることも、日本とカナダの文化の違いを簡単に理解してもらえないということも分かってはいるのですが、だからInstagramでも自分はどう思っているかどんどん発信して、応援してくれる人を探してるという部分もあったり。

あとは思い切ってタワーオブテラー乗ってみたら色々吹っ切れちゃって、絶叫マシンにハマっちゃうみたいにグランビリーに来てみたら個人店の面白さに気づいた、みたいな人が増えたらいいな。なんて。

だから、来てみたいと思ってくれてる人は、勇気を出して一度来てみてほしいなと思います。来たらなんでこんなに躊躇していたんだろうとガックリすると思うので!(笑)」

わたしから見た、グランビリーバーガー

お客様は神様ではない。サービス業ではありません。というメッセージは、多くのお店さんは思っていても発しないメッセージ。そこを切り込んで発信することで、佐藤さんの想いに共感するファンが出来ると同時に、その逆もしかり。

ただ、多くのお店さんが発信しないからこそ、佐藤さんが発信するメッセージは一見インパクトが強いように思えるけれど、これらのメッセージは決してインパクトが強いものでも、変わったメッセージでも何でもなくて。全てのメッセージの根本的な考え方は「人と人の在り方」を問いている“だけ”のもので、ごくシンプルな優しい考え方だと思うんです。

お店に行って席に着けばお水とおしぼりが運ばれてきて、ある程度したら頼んだ食事が適切に運ばれてきて、食べ終わったらタイミングよく下げてくれて、お水のお替りをお持ちしましょうか、なんて。そんな環境が当たり前の感覚になっていることに気づかされたり、時に私自身の固定概念と対話するきっかけを与えてくれたり、お店とお客さまという関係性を改めて考えさせられたり。

佐藤さんのメッセージは、私にとって色々な気づきを与えてくれていたりします。

この記事でも色々書いてしまったけど、読んでくださっている方に伝えたいことはひとつだけ。

「まだグランビリーに行ったことがないけど気になっている方。行ったことあるけど佐藤さんが忙しそうにしていてゆっくり話せたことがないという方は、佐藤さんと話せるまで粘り強く足を運んでみてほしい。」

いい意味で、佐藤さんって変わってるけど普通の人だし、ハマってしまえば自分の生活が豊かになるような、自由で心地よい場所。

Instagramの内容から想像してしまうような、オーダーを間違えたら怒鳴られる、気難しくて怖い店主が本当にいるのか、いないのか。直接自分の目で見て、佐藤さんの人となりを、グランビリーというお店を感じて頂けたらいいのかなと。

ここは、オーダーを間違えたら怒鳴られる、気難しくて怖い店主がいる、私のお気に入りのお店です。

GRANVILLY BURGER
グランビリーバーガー
Instagram @granvilly_burger

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